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現代では寝る間を惜しんで塾や習い事などに取り組む子どもたちをよく見かけます。しかし、「寝る子は育つ」とこれまでに言われてきているように、睡眠は子どもたちの様々な発育・成長に関係しています。今回は、意外と知らない睡眠と身長の関係や、具体的にどれくらい寝ればいいのか、または寝やすくするための方法についてご紹介します。
体の発育には成長ホルモンが大事
人の体の中には、1日の中で周期的に変化する(日内変動)ホルモンがいくつか存在しています。その中でも夜間の睡眠時に分泌される代表的なホルモンに、身体の成長や発育に大きく関係する成長ホルモンがあります。
成長ホルモンは、骨の末端にある成長軟骨での細胞分裂を活発にし、骨の成長を促す作用があり、身長を伸ばすことに関係しています。成長ホルモンは1日全体の約70%が睡眠中に分泌され、特に睡眠前半にあるノンレム睡眠と呼ばれる深い眠りの際に分泌されるとされています。また、22時~26時という入眠2~3時間後にその分泌量が最高になることや、寝つきがよいと成長ホルモンの分泌が増加するといったことも報告されています。
実際に、睡眠障害があると低身長となりやすいという研究もあり、十分な睡眠が身長の伸びに関係すると言えます。
また、成長ホルモンの他に夜間に分泌されるホルモンとして、メラトニンがあります。メラトニンは成長ホルモンがよく分泌される深い睡眠を安定させる作用があると同時に、性腺の発達を抑制する作用があります。つまり、メラトニンの分泌が減少すると、性ホルモンの分泌が増加し、思春期の初来を早めてしまい、骨端線の閉鎖などの骨成熟を促進してしまうため、身長の伸びを止めてしまうことになります。
理想的な睡眠時間と実際の睡眠時間
日本人の睡眠時間は2009年の調査では470分(7時間50分)とされており、フランス(530分)、アメリカ(518分)など欧米の国と比べてもかなり短く、不眠傾向の人も多いとされています。その傾向は成人だけでなく子どもにも見られ、2011年の調査では15歳から19歳の平均睡眠時間は7時間42分で、なかなか眠れないなどの入眠障害や途中で目が覚めてしまうといった中途覚醒などの不眠症の症状を有する人が成人は20.9%にも関わらず、子どもは23.5%と高い傾向にあることも報告されています。
小児期に必要な睡眠時間は9歳が10時間、11歳は9時間30分、13歳は9時間15分、15歳は8時間45分とされており、 忙しい毎日を送っている子どもたちがもっとたくさん眠れるように、寝やすいようにしてあげることが重要です。
大事な睡眠時間を十分に確保するためには?
睡眠は身長の伸びだけでなく、実は学力や集中力や注意力といった脳の機能の発育にも大きな影響があるとされています。だからといって、「もう22時だから早く寝なさい!」といくら布団の中に入らせても、すぐには寝られずに中でゴロゴロするといったことはよくあります。子ども自らが早く寝たいと思えるためには、大人が寝やすい環境づくりを手伝ってあげることが重要です。
放課後には元気に体を動かす
一日の中では体温は常に一定というわけではなく、夕方に最も高くなるとされており、その後、眠りたい時間に向かって深部体温が下がり、スムーズに眠りにつくことができます。そのため、夕方に積極的に体を動かすようなスポーツや遊びを行うことで効率よく体温をあげることができます。
運動は骨の成長を促すこともあり、子どもの身長の伸びには非常に効果があります。しかし、入眠2時間以内に激しすぎる運動やトレーニングを行うと、神経を興奮させてしまったり、体温を上げすぎて深部体温がなかなか下がらずに眠ることができなくなってしまうので、注意しましょう。
寝る前の部屋は若干暗めに
夕食後に家族みんながリビングに集まり、明るい部屋で会話をしたり、テレビを見たりなどリラックスした時間を過ごすことは多いかと思います。しかし、そのリビングの照明が明るすぎたり、白っぽい光が強い照明の場合、目に入る光の情報によって脳内の体内時計や神経に伝わり、交感神経活動を高めてしまい、入眠が妨げられてしまいます。
夜間に分泌されるメラトニンは光によって強く抑制されてしまいます。現在はリモコンで明るさや照明の色を変えることのできるものも販売しており、うまく使い分けて眠る1時間前にはやや暗めの暖色系の照明に切り替えていきましょう。また、テレビをつけながら就寝させるという家庭もありますが、基本的にはテレビはその明るさも問題になりますし、小さな音にしても60dB程度であり、入眠に適さないとされています。
スマホやタブレットは眠る前には使用しない
現代の子どもの多くが自分のスマホを持ち、メールやSNSなどで夜間遅くまで使用することが問題となっています。保護者のスマホやタブレットなのでゲームをするという姿も良く目にします。実際に、スマホやタブレットの画面から発せられるブルーライトは寝つくまでの時間を延ばしたり、さらに、成長ホルモンの分泌の増える深い睡眠の減少をきたすことが科学的に明らかにされています。スマホ等の1日あたりの使用時間が長いと熟睡度が悪くなるという報告もあります。
家庭の中で、スマホなどの使用ルールをきちんとつくり、枕元にはスマホ等を置かずに、就寝中に決められた場所で充電するようにするなど、なるべく目に触れない、触らない時間をつくることが重要です。
休みの日でも同じ時間に起きる
「明日は仕事も学校もお休みだから、目覚ましもかけずにゆっくり寝よう」大人もそのように考えて、いつもよりも2~3時間程度起床時間を遅らせている家庭もあるかもしれません。しかし、1日だけであれば睡眠不足の解消という意味では効果がある場合もありますが、週末や長期休暇などで起床時間を遅くさせることを2日連続して行うことで、体内時計には45分程度の狂いが生じるとされています。
体内時計は、朝に目から入る太陽光の刺激によりリセットされることで、体が活動的な状態にスイッチが入り、そこから次の入眠までのカウントダウンが始まるようになっています。体内時計は、ホルモンの分泌だけでなく、自律神経の調節なども行い、体の様々な臓器に対して指令を出しています。体内時計は本来25時間の周期とされていますが、起床後に太陽光を浴びて、朝食を摂り、規則正しい生活を行うことで、実際の時間である24時間に同期させることができます。そのため、出来る限りいつもと同じ時間に起床し、雨戸やカーテンを開け、部屋の中に太陽光が入るようにして、光を浴びることが重要となります。
眠る1時間前にはリラックス
実は親がガミガミ「寝なさい!」と怒るようにいっても、子ども本人が「うるさいな!」と興奮してしまったら、ますます眠れなくなります。少なくとも眠る1時間前には興奮せず、何もしない、何も考えないような時間を作ることが有効です。まずは大人は、上記のような環境づくりに徹して、子ども自身が「眠くなったからもう寝るね」と自らが進んで眠るように支えていきましょう。
身長を伸ばす3大要素は、「栄養」「睡眠」「運動」
最近の子どもたちは、眠る時間が遅くなり、朝が起きられず、朝ごはんを食べないで学校へ。そして学校へ行っても、やる気や集中力の低下が生じ給食までの間をぼんやり過ごしてしまうことで、将来的に学力や体力の低下につながるとされています。「体をよく動かし、よく食べ、よく眠る」という心身の成長期の子どもにとって必要不可欠な基本的な生活習慣をもう一度、睡眠の観点から考えてみましょう。
参考文献
・厚生労働省健康局:健康づくりのための睡眠指針2014.平成26年3月.http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/suimin/