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たくさんの友達に囲まれているわが子の姿を見て、他の子どもたちと比べて「一回りくらい体が小さい」、または「頭ひとつ分大きい」など、体つきの違いについて不安に感じることもあるかもしれません。
その違いは、問題のない範囲なのか、それとも治療が必要なものなのか、どういう状態なのかを判断する指標として『成長曲線』というものがあります。不安に思って、小児科へ行く前に、まずは成長曲線とは何なのか、どのように見ればよいのかといったことについてご紹介します。
成長曲線とは何か?
乳幼児期の健診や学校において年に数回の健診が行われ、子どもの栄養状態を知る指標として身長や体重などの身体計測が行われます。昔は、スポーツや運動などの体格の大きな者の選別であったり、戦後の栄養状態の改善の目安となる国民全体の体格の向上の指標として性別や年齢別の身長や体重の平均値の推移に関心が向けられていて、個々の子どもの成長に対する評価はあまりされていませんでした。
しかし、最近になり、その身体計測によって得られた値を、標準成長曲線(成長曲線)という年齢に沿って縦断的にプロットすることで、描かれた成長の基準曲線を比較して子供が順調に発育しているかどうかを判定するようになりました。現在は、2000年の乳幼児身体発育調査、および学校保健統計調査に基づく性別年齢別基準値を用いて評価をしています。
成長曲線を用いることで、現在の身長や体重などのサイズの評価だけでなく、高身長・低身長を生じる原因となる疾患を見つけるためのスクリーニング手段となります。高身長や低身長は結果として生じるものであるため、その原因となる病気は多岐にわたります。
成長曲線の見方は?
成長曲線にはパーセンタイル成長曲線とSD成長曲線というものがありますが、現在、学校の健康診断などの小児保健の領域において使用されているのはパーセンタイル成長曲線です。一方で、小児科などの医学領域においては、SD成長曲線を用いられます。
母子手帳など一般的に広く使用されているパーセンタイル成長曲線のパーセンタイルというのは、対象となる集団を均等に百分割したときに、小さい方から数えて何番目になるのかということを表す数値です。つまり、50パーセンタイルが100番中50番目の中央値で、例えば、100人が身長の低い人から順に並んだ時に、真ん中にくる人が50パーセンタイルとなります。成長曲線では、下から3、10、25、50、75、90、97パーセンタイルを表す線で構成されています。
SD成長曲線のSDとは標準偏差(standard deviation:SD)のことで、対象となる集団の平均値からどのくらい離れているかということを表す数値です。±2SDの中にはその集団の95%が含まれるとされます。医学領域においては極端に大きい、または小さい子供を診療するうえで、平均値からかなり離れた数値であることもあり、パーセンタイルでは実際的な数字にはならないところをSD表示にすることで、説明しやすくなります。
どちらの成長曲線も近年では、現在の計測値だけでなく、過去の計測値と年齢をあわせてプロットすることで、成長速度の評価も行うことができるとされています。
成長曲線の基準から外れている時は?
現在のサイズの評価としては、一般的に以下のように定義されます。
・高身長:97パーセンタイル以上 (+2SD以下)
・低身長:3パーセンタイル以下(-2SD以下)
つまり、最も下の線と上の線の間から外れてしまっている場合には何らかの問題があるのでは?と考えてしまいますが、例えば低身長と判断される子どもの90%近くは、家族性低身長などの遺伝や体質による低身長であるため、治療の対象にはなりませんし、高身長についても同様のことが言えます。しかし、ともに、大きく数値が上回る(+3SD以上の場合、または下回る(-2.5SD)の場合、また、下記のような症状がある場合には、何らかの成長障害がある可能性もあるため、医療機関を受診し検査を行う必要があるとされます。
◆数値が上回る場合に考えられる主な疾患と特徴
・甲状腺機能亢進症:甲状腺の腫大(首の前面の腫れ)、眼球突出(眼球が飛び出たようになる)、頻脈(脈が速くなる)。および、不眠、動悸。食欲はあるのに、体重が減る。体温の上昇および発汗が増える。
・マルファン症候群:arm span(両手指先端間距離)が身長より長いなど手足が長い。
◆数値が上回る場合に考えられる主な疾患と特徴
・成長ホルモン分泌不全性低身長症:顔面・頭部正中奇形(口蓋裂など)。低血糖。男児の小陰茎。
・ターナー症候群:手足のむくみ、外反肘(肘を伸ばしたときに、前腕部が外側に曲がる)、続発性無月経(月経が来ない)。
・甲状腺機能低下症:食欲は低下しているのに体重が増える。便秘。疲れやすい。徐脈。
・クッシング症候群:肥満。多毛。高血圧。糖尿病。
以上のように、明らかな成長曲線からの数値の逸脱とともに症状がある場合には、ホルモン分泌異常などの症例が多いため、小児科の中でもできる限り小児内分泌を専門とする医師のもとを受診しましょう。
成長曲線の範囲内であっても注意!成長速度の変化について
身長は成長曲線のカーブに沿って増加することが多いとされています。しかし、これまでに低身長や高身長には該当せず、順調に成長曲線に沿って伸びていた身長が、急に伸びなくなったり、反対に異常に伸びてきたりという成長速度の変化には注意が必要です。
女子は9歳、男子は11歳から急激に身長が伸びる成長のスパートがおとずれますが、それ以前に、年間4cmよりも身長が伸びていない場合には、成長を阻害するような何らかの疾患が生じている場合もあります。反対に、急に身長が伸びると喜びたくなりますが、成長スパート以前の女子は8歳未満、男子は9歳未満でスパートが見られる場合も、思春期早発症という性ホルモンの分泌異常が原因で生じる疾患もあり、一時的には身長が伸びて高身長になるものの、最終的には骨端線の早期閉鎖が生じることで低身長となる可能性もあります。
この成長速度を知るには、成長曲線を継時的に記録しておくことが重要となります。乳幼児期は定期健診、小学生以降であれば学校での健診が年3回あるため、誕生日に近い計測値を記録していくことで、子どもの成長だけでなく疾病の早期発見にもつながります。母子手帳やインターネットサイトなどを利用して、わが子の記録を残していきましょう。
成長曲線だけに振り回されないことも大事です
自分の子どもが成長曲線の下限や上限あたりを行ったり来たりしていると、不安になる方が多いかもしれません。しかし、低身長などの身長の発育に関する異常は、親の身長が低いから子供も低いといった家族性低身長や、親も中学生までは小さかったけど、高校生で一気に伸びたといった体質性思春期遅発などの病的原因でないものが圧倒的に多いとされています。しかし、いつか大きくなるから、とゆったりと構えている間に何らかの原因で身長の発育に異常が続いてしまう可能性もあるので、学校の養護教諭などから受診を勧められた場合には、なるべく早く受診することが必要です。
また、成長に必要な十分な栄養や、運動習慣、そして睡眠などの休養が十分にとれていなくても身長の伸びは悪くなりますし、反対に、過剰な食事摂取や運動不足により肥満になっても、一時的に身長は急な伸びを示す場合もあります。しかし、まずは、生活習慣を親子ともに規則正しいものにして、焦らずに温かく子どもの成長を見守りましょう。
(参考文献)
・文部科学省スポーツ・青少年局学校健康教育課・監:方法及び技術的基準,成長曲線の活用について.児童生徒等の健康診断マニュアル 平成27年度改訂、公益財団法人日本学校保健会、2015