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骨のタテの成長が行われる骨端線
骨は、コラーゲンを主とする蛋白質より構成されている骨基質にカルシウムやリンなどのミネラルが沈着してできた非常に硬い組織です。骨は、神経がさまざまな組織に対し命令を伝えたり、筋肉を収縮させたり、血液を凝固させるなどの作用を持つカルシウムの巨大な貯蔵庫の働きも持っており、血液中などにカルシウムが少なくなると、骨にある破骨細胞が骨を吸収する(壊す)ことで、血液中にカルシウムを放出していきます。
本来、骨は「壊しては作る」という骨吸収と骨形成を繰り返しており、特に、子供の時期は骨形成が優位に働き、骨を大きくしていきます。一方で、骨を伸ばしていくのに重要な役割を果たすのが、成長軟骨です。軟骨は骨とは違い、水分をたくさん含む柔らかい組織で、成長軟骨は子供の手や足などにある長い形をした骨である長管骨の中心部分にある骨幹と骨端の間にあります。骨のレントゲン写真においてはその部分が抜けて線のように見えることから、骨端線と呼びます。
骨端線の部分では、4つの軟骨細胞の層に分かれており、すべての軟骨細胞が骨に代わってしまうと骨が伸長しないためにそれぞれに役割があります。まず、骨端線の中でも成長するための先端付近にある静止軟骨細胞層は、血管があるため主に軟骨層を維持して増殖していく軟骨細胞に栄養を供給するとともに、軟骨細胞自体も次のステップの際に補充されていきます。次にあるのが増殖軟骨細胞層で、骨を伸ばす土台となる軟骨細胞を細胞分裂により増加させ、軟骨細胞を縦に柱状に配列する働きがあります。
さらに、その下にあるのが肥大軟骨細胞層で、軟骨細胞を肥大化した後に軟骨組織にカルシウムを大量に沈着させるのと同時に、細胞自らが細胞を死滅させていきます(アポトーシス)。その後、軟骨の蛋白質成分である基質が石灰化することで石灰軟骨層を形成していきます。そして、石灰化した軟骨基質は侵入した血管を通じて供給された破軟骨細胞や骨芽細胞により骨基質が産生され、骨に置換されていきます。つまり、静止軟骨細胞層から増殖軟骨細胞層への細胞供給が続く間は規則正しく長軸方向に対して骨は伸びていくことになります。
骨の成長が止まるとき、骨端線の閉鎖とは?
思春期を迎えると、男性の場合は男性ホルモンであるテストステロン、女性の場合は女性ホルモンであるエストロゲンの血中濃度が上昇します。その作用によって、男性らしいまたは女性らしい体つきに変わっていきます。骨の伸張にも性ホルモンは大きく関与し、中でもエストロゲンが作用することで軟骨の分化が促進され、静止軟骨細胞層までが増殖や肥大を呈するようになるために、思春期の特徴としてみられる急速な身長増加が生じます。
男性の場合には、テストステロンを含むアンドロゲンをアロマターゼという酵素でエストロゲンに変換することで作用しています。しかし、骨端線(成長軟骨)の全てが肥大軟骨細胞と同様に肥大化だけでなくアポトーシスが起きるために骨化が進み、身長増加が停止します。この際には、骨幹と骨端が癒合するためにレントゲン画像上で見えていた骨端線が見えなくなります。このことを、骨端線の閉鎖と言います。骨端線が閉鎖するということは、骨が十分に成熟して子供の骨から成人の骨になり、骨の伸張が止まる、つまりこれ以降は骨の伸張による身長の伸びは生じないということになります。
骨端線の閉鎖を早める原因の一つには、肥満があります。肥満児はエストロゲンなどの性ホルモンの活性が高くなりやすいことや、脂肪細胞から分泌されるレプチンが増加することにより思春期に早く入ってしまうために、骨端線の融合が進みやすくなります。
非常に脆弱な骨端線。気をつけるべき骨端線障害
骨端線は、レントゲン写真でも黒い隙間の線のような形で見えるように、骨組織よりも非常に弱く、大きな外力によって簡単に損傷してしまいます。骨端線に存在する4つの成長軟骨の層の中で、ねじりや引っ張りなどの外力に弱いのは肥大軟骨細胞層とされており、一旦損傷してしまうと、修復には3~4週間程度かかるとされています。
一般的に子供の骨折は大人に比べると治りが早いとされていますが、骨端線の傷害は適切に治療をしないと成長障害や関節の変形などを招くため、慎重に治療に取り組む必要があります。
骨端線の閉鎖時期は人によっても大きく異なり、また部位や骨によっても異なります。比較的閉鎖が早いのは四肢の末梢(指先など)で、骨盤や肩甲骨周辺は20歳以降と遅い傾向にあるとされており、身長の伸びに関連する下肢の骨である大腿骨や下腿骨(脛骨、腓骨)は16歳から20歳くらいの間に閉鎖するとされています。
つまり、閉鎖する前の時点である小学校高学年から高校生までの間は骨端線障害が生じやすい時期であると言えます。骨端線障害は、事故や衝突などの突発的な外力で発症するだけでなく、骨に付着している腱を介して筋肉の張力が加わるような、小さな外力の繰り返しでも発症します。特に骨の伸びが急激な時期は、筋肉や腱の付着部である起始と停止の距離も急激に離れるために、筋肉が相対的に引っ張られる形になり、筋肉の柔軟性が低下することで筋肉や腱、そしてその付着部に対し過度なストレスをかけることになります。これは、練習量が非常に多く、一つの関節や部位を繰り返し使用することで生じるオーバーユースによるスポーツ障害の代表でもあります。
骨端線障害の中で、最も早い年齢で表れるとされるのが、Sever病という踵骨の骨端線障害です。一般的に小学校高学年が好発年齢とされています。サッカーなどのジャンプやランニング動作などが多いスポーツを行うと、ふくらはぎの筋肉の腱であるアキレス腱に持続的にストレスがかかり、アキレス腱付着部である踵骨骨端部に痛みを生じます。運動制限を行い、ストレッチングなどで筋肉の緊張をとったりすることで痛みは軽減され、適切に治療が行われれば予後は良好ですが、まれに運動を継続することで骨端線の離開が進むことで、成長障害が生じる場合もあります。
次に、身長の発育速度がピークになる年齢の前後1年に生じやすいとされるのが、膝関節に生じるOsgood-Schlatter病です。大腿四頭筋の停止部である膝蓋腱の付着部である脛骨粗面(膝関節の下のあたり)に痛みを生じ、ひどい場合には膝蓋腱が付着部の骨を牽引するために骨が隆起し正座が困難になったり、さらにひどい場合には膝蓋腱が脛骨粗面から剥離してしまい骨片が遊離してしまうこともあり、その場合には手術を行う必要があります。
骨端線障害は、部位ごとの好発年齢なども明らかになってきており、練習量や強度、フォームなどのバイオメカニクスの観点との関連によって、傷害発生が予測することが可能になってきています。身長の発育が盛んな成長期には明らかに原因となるような外傷がないために、「少しだけ痛いけど、運動できるから続ける」といったことも多く、適切な診断や治療を受けないために一生涯にわたって機能障害を起こすこともあります。
適度な運動は骨の発育にはプラスに働きますが、過剰に特定の部位を使うような運動は逆効果になることもあるということをきちんと理解して、様々な運動を経験していくことが無理をせずに身長の伸びを促すことに繋がると言えます。
参考
・Ogclen ,JA:Evaluation ot’ development alid growth Skelelal Injury m the Child,3rd ed, Springer, New York,128,2000
・池亀志帆ほか:発育期サッカー選手の筋タイトネスと腰部障害の発生.Auxology 9:52-54,2003 臨床スポーツ医学:Vol 32、 No 4(2015-4) 329
・上田晃三ほか:骨の成長・発達. バイオメカニズム学会誌,Vol. 32, No. 2 (2008)