成長ホルモンはその名の通り、成長を促進させる作用を持っているホルモンですが、それ以外にも糖や脂肪の代謝、また、筋肉や骨、皮膚を強くするなど、体のほぼ全ての組織を対象とした作用を持っています。そんな、成長ホルモンはどういったものなのか、そしてどのような作用があるのか、効率よく分泌させる方法などをご紹介していきます。
1)成長ホルモンとは?
成長ホルモンは.191個のアミノ酸がつながったペプチドホルモンで、骨の末端の成長や細胞分裂を促進し,成長を促すホルモンです。成長ホルモンは、他のホルモンのようにターゲットとする臓器や組織といったものがなく、体中の様々な部位に対して作用を持っています。中でも、小児期においては成長ホルモン分泌不全が低身長を特徴とするように、成長ホルモンが発育状態、身長の伸びにとても影響していることがわかっています。
胎児期や小児期においては、成長ホルモンがそのまま身長の伸びに対して作用するのではなく、肝臓や種々の組織に作用して成長因子の一つIGF-I(インスリン様成長因子-1)を作り出し、このIGF-I が身長を伸ばす成長促進因子として、軟骨細胞に対して作用を及ぼします。なお、成人期においては、糖や脂肪の代謝調節作用を持つため、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病に関与したり、筋肉などの蛋白質の合成や骨の形成を促進する作用もあるため、ロコモティブシンドロームにも関わるなど、良好なQOL(Quality of life:生活の質)を維持するためにも成長ホルモンは重要な役割があります。
2)身長の伸びに関係している要因は?
乳幼児期は、胎児期から継続して成長率が大きい時期で、子どもは出生時から1 歳までは約25cm、1 歳から2 歳までは約10 cmと伸びていき、思春期に向けて徐々に低下していきます。胎児期から乳幼児期は、成長ホルモンよりもタンパク質を中心とした栄養状態が良好であったかどうかが、成長に関与する血中のIGF-Iの濃度に関与し発育に関係しています。
しかし、その後の3~4歳から思春期までの身長の伸びが緩やかである前思春期においては、成長ホルモンの分泌量が、成長率や身長の標準値から算出されたSD スコアと相関していることが報告されており、成長ホルモンの関与がとても大きいとされています。
思春期になると、二度目の成長のスパートが見られますが、思春期開始から1〜2 年で骨端線の閉鎖により成長率のピークを迎え、最終的に成長は止まり、成人の身長に達します。思春期の際の成長は、主に性ステロイドホルモンの影響を受けるとされていますが,成長ホルモンの分泌も上昇していると報告されています。また,女性ホルモンであるエストロゲンは,直接成長板軟骨にも働いて成長を促進し、男性ホルモンであるテストステロンはエストロゲンに変換されて行われる成長の促進と、直接成長板軟骨に働いての骨伸張作用があると考えられており、それが思春期以降に大きくなる男女間での大きな違いを生むことに繋がると考えられています。
3)成長ホルモンの分泌を良くする方法とは?
前思春期において身長の伸びに最も強く関与する成長ホルモンは、夜間に分泌される代表的なホルモンです。成長ホルモンは1日全体の70%が睡眠中に分泌されるため、夜になっても眠らなければ成長ホルモンの分泌量はあまり増えません。そして、成長ホルモンの分泌量は、睡眠の長さや深さにも比例するとされており、特に睡眠前半の深い睡眠中に分泌され、一方でこの時間帯に覚醒していると分泌量が低下しまうとされています。つまり、深い睡眠の増加と成長ホルモンの分泌増加は並行して起きる現象であることから、質の良い深い睡眠が成長ホルモンを増やす上で重要といえます。
その質の良い睡眠を行う上では、成長ホルモンと同様に夜間に分泌されるメラトニンというホルモンの分泌が大きく関与します。メラトニンは、深い睡眠を安定化させることができるほか、睡眠が不足したり夜間に強い光に当たるなどして、メラトニンの分泌が減少すると、性ホルモンの分泌が過剰に高まり、性の成熟を進めてしまうことから、成長に対して抑制的に働く可能性があります。
以上のことから、成長ホルモンの分泌を良くするためには、質の良い睡眠をとることが重要といえます。そのためには、まず環境作りが有効です。最近は、テレビだけでなくスマホやゲームなど、電気などの光だけでなく目に入ってしまう光があります。寝る直前には、部屋を暗くして入眠しやすい環境を作りましょう。また、最近では外遊びなどの時間が減ってしまい、体を動かすことが減ってしまい、体が疲れていないため布団には入ったもののなかなか寝付けないということもあります。そのためには、夕方に思いっきり体を使った遊びなどの運動を行うことが有効です。運動をすること自体にも成長ホルモンの分泌を促進する作用があるので、しっかり体を動かして、成長ホルモンの合成に関与するアルギニンなどのアミノ酸がたくさん含まれるたんぱく質をしっかり食事でとり、早めに就寝するという、子供にとって昔から良い生活とされる「良く動き、良く食べて、良く寝る」ことが、実は成長ホルモンを効率よく分泌させることができるというわけです。
4)成長ホルモンの分泌を妨げてしまうこととは?
一方で、成長ホルモンの分泌を阻害してしまうことの一つに肥満があります。成人においては、肥満が成長ホルモンの分泌を低下させるだけでなく、成長ホルモンの不足により内臓脂肪を増加させ、インスリン抵抗性を上げ耐糖能異常を起こしたり、LDLコレステロールや中性脂肪を増加させ、HDLコレステロールを低下させるなど動脈硬化を招くなど、さらに肥満を悪化させることが明らかとなっています。小児期においては、肥満児は前思春期の成長ホルモンの分泌は低下しているものの、身長の発育に関するIGF-Iが正常か高めで実際の成長率も高く、思春期前までは正常体重児に比べると身長も大きい傾向にありますが、肥満児はエストロゲンなどの性ホルモンの活性が高くなってしまったり、脂肪細胞から分泌されるレプチンが増加することにより思春期に早く入ってしまうために、骨端線が融合して成長が止まるため思春期の伸びが小さくなり、最終的に成人時の身長は平均的または正常体重児より低くなるとされています。肥満になるような栄養の過剰摂取は、高血糖状態を招きインスリンの分泌を増加させることで血中のIGF-I が増加して、それが成長促進に働くのと同時に、血中の成長ホルモン受容体が増加し、成長ホルモンに対する感受性が亢進するため、少ない成長ホルモンでも体は正常に成長できることから、ネガティブ・フィードバック機構により中枢に働いて成長ホルモンの分泌を低下させてしまいます。
「小さい時はぽっちゃりのほうが、将来大きくなるからたくさん食べなさい」という話をよく耳にして、最近では食トレということでたくさん食べさせることが重要との認識が広がっています。確かに、成長のためには、栄養状態が非常に大きな役割を果たしますが、過剰な栄養は成長ホルモンによって成長できるチャンスに、成長ホルモンを活かした成長ができず、むしろその後の成長のスパートである思春期において十分に成長できなくなる可能性も高くなります。特に、幼児から小学校中学年までは、体を動かす遊びや運動した分+α程度のバランスのとれた食事をとるなど、食べ過ぎや運動不足を避け、来たる思春期に向けて成長ホルモンを利用して地道に成長させていきましょう。
参考文献
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